自然の中の「矢野南小学校」

広島市佐伯区役所 建築課 岡本 勝己


■はじめに

1998-10-201fig 矢野南小学較は、母体校である矢野西小学校の児童数が過大規模となることが見込まれることから、平成7年、分離新設校として計画されました。また、この事業は、広島市において平成7年度より始まった「ひろしま2045ピース&クリエイト」の対象事業に指定され、設計者として富田玲子氏(象設計集団)が選定され、設計は同氏に特命で依頼されました。そして、基本設計から数えて2年4か月を経た平成10年4月に新しく開校し広島市立の小学校は合わせて135校となりました。

■ひろしま2045ピース&クリエイトとは?

 被爆50周年を記念して、1995年に開始した広島市の事業で、被爆100周年の2045年に向けて、建築・土木・ランドスケープ等のデザインカに優れた設計者を選定・起用することにより、社会資本を整備し、個性的で魅力ある都市景覿の創造を推進し、「世界に輝く人間讃歌都市ひろしま」の実現を図ろうとするものです。今回この小学校の設計者として選定された富田玲子氏は、埼玉県宮代町立笠原小学校を設計した実績を持ち、その設計理念は矢野南小学校にも楷襲されています。また、身近なところでは安佐北区にある安佐町農協町民センターの設計者としても知られているところです。

  •  建物概要
  • 所在地 広島市安芸区矢野南四丁目17−1
  • 敷地面積18,734平方メートル
  • 建築面積 5,222平方メートル
  • 延床面積 8,707平方メートル
  • 構造・階数
  • 校舎一RC造・3階
  • 屋内運動場一RC造(一部S造)2階
  • プール付属棟一RC造・1階
  • ■みどころ

     このような経緯でつくられた矢野南小学較は、単に135番めの小学杖ではなく、従来校とは一味違ったいろいろな特徴を兼ね備えた学校となっています。ここでは、外から内へ視点を移しながら、その主な特徴を見ていさましょう。

    ・周辺環境との調和

    1998-10-202fig 本敷地は、安芸区において近年開発され、これからの発展が期待される新しいまち安芸矢野ニュータウンの中に立地しています。緩やかな山並みに囲まれ、東西に流れるニュータウンの術並みに合せ、校舎を東西に長い2棟並列の階段状に配することにより、周囲との連続性を創造しています。また3階建校舎は、瓦茸の勾配屋根とし、外壁は大地をイメージした落ち着いたベージュ系の色を採用し、周辺環境との融和が図られています。

    ・自然との共生

    1998-10-203fig 多種多様の植栽、湿生園・水田・学級園のある上庭園、雨水の流れを利用した中庭・水路・生態池等たくさんの自然を採り入れ、更に構造物の素材も自然石・土・間伐材を含む木材等を多用しています。こうすることで、開発により失われた自然を少しでも回復させると同時に、体の感覚で季節を知り、方位を覚え、形や大ささを理解することがでさます。すなわち、豊かな質感を五感に訴えることがでさ、子ビもたちの感性が一層高められるよう期待するものです。

    ・内と外とのつながり

    1998-10-204fig 各教室と外部は、広めにとった半屋外空間の開放廊下・前庭を介して、緩やかに連続しています。この前庭には、木製デッキや櫓栽があり、外の教室としても遊び場としても活用できます。このような内部と外部の中間領域(はっさりと区別しにくい=曖昧模糊)という理念は、本設計の基本思想であり、建築と造園といったハード面から、地域と学校、学習と遊び等いろいろな場面に度々登場してきます。そして、その根底には、“子どもたちの身も心も箱に閉じさせない”という思いが込められています。

    ■おわりに

    1998-10-205fig 紹介したい点は多々あるのですが、紙面の都合もあり、堅苦しい説明はこの程度にとどめますが、“百聞は一見に如かず”です。文章や写真をあれこれ眺めるよりも、硯物を見ていただくのが一番です。ぜひ一度、この真新しい小学絞を訪れて、子どもたちとともにいさいさとしている姿を直接肌で感じてほしいと思います。意外なところで楽しい仕掛けを発見できるかもしれませんよ。最後に蛇足になりますが、この学校は、夜になると全く別の表情を見せてくれることをお知らせして本稿を終わります。


    社団法人広島県建築士会広島支部報「鯉城」1998.10No72-施設チャームポイント紹介より